白百合部隊外伝 「白梅部隊の戦闘」

 

 

  

 1945年4月2日 沖縄

 

 「全員準備良いか?」

 この日、陸軍特別戦車隊白百合部隊第三小隊の五式軽戦車3両は敵と交戦に入ろうとしていた。そして、1号車の車長大森司大尉は部下に異常が無いかの確認をさせていた。

 「準備良し!」

 レシーバに、高いソプラノの声が返って来た。何故ソプラノの声が返ってくるのか?実はこの戦車には彼以外男はいない、みな女子だ。

 この部隊こそ、この年の1月に発足したたばかり(隊員の養成はそれ以前に始まっていた)の女子を主力とする陸軍の秘密部隊なのだ。当初、陸軍は女子部隊の創設の考えは海軍が作っても毛頭無かったが、しかし相次ぐ激戦による兵員不足は明らかであり(というかこれは中国に100万名もの兵隊を継ぎこんだままで太平洋戦争を始めたのが悪いのだが)海軍に遅れること半年して創設を決定した。

 最初は海軍と同じ飛行部隊の設立を目論んだが、その頃にはパイロット適正者は軒並み海軍に取られており、仕方なく戦車部隊となった。名前は海軍と同じく戦場には合わぬ女子に合った美しい物として、白梅になった。(ただ後の戦史家達は余りにも安易な命名だと口を揃えて言っているが)

 彼女らが富士女子戦車訓練所で訓練を終え沖縄に入ったのは3月中旬、僅か2週間前であった。

 そして、今まさに彼女らは始めての戦闘に入らんとしていた。

 

 射撃手の渡辺有紀軍曹は照準器をとうして、接近してくる敵戦車眼鏡を掛けた目で眺めていた。

 彼女は、女性仮性半陰陽患者から募集された、特別女子報国戦車隊に志願した一人で有る。本当なら彼女は同じ施設で教育を受けていた親友の紺野一子と同じく,海軍の飛行兵に成るつもりだったが、視力が適正不足で不合格に成り、やむなく陸軍の戦車隊に回ったのである。

 しかし彼女はそこで、射撃手としての能力を開花させ、射撃テストで優秀な成績をおさめ他の同期隊員より一足飛びに軍曹に成っていた。

 そして、彼女は初めての実戦に入ろうとしていた。

 「敵戦車距離500」

 彼女が大森大尉に言う。

 「攻撃用意、各車距離300で発砲、砲弾はタ弾を使用。」

 大森大尉が各車に命令する。

 そして・・

 「距離300、撃て!!」

 彼女は引き金を引いた。

 砲弾が撃ち出された。砲塔内では薬莢が音をたて砲身内から出された。そして、2両の敵全てに命中が確認できた。

 「命中!!見たかヤンキー!!」

 彼女が照準器を覗きながら言った。彼女は施設で一応女性としての教育を受けたものの、他の人(例紺野一子)と違って少し言葉遣いが荒い。

 「いや、よく見ろ渡辺!」

 「なんですか車長?」

 「敵は未だ生き残っている。次弾装填急げ!!」

 命令と共に、装填手の三木容子一等兵が砲弾の装填に掛かる。

 「う、嘘!?」

 慌てて彼女は照準器で敵を見る。すると確かに、今撃破した2両の後ろに3両のM−4型戦車がいた。そして、砲身を回し、こちらを狙っていた

 「装填完了」

 「渡辺撃て!!」

 命令と共に、彼女は引き金を引いた。だが、発射した弾は見事に敵の正面装甲にはね返された。

 実はこの時、一撃必殺のタ弾(成形炸薬弾、これを使うと砲口径に関係無く敵の装甲を貫通できる)は既に弾切れで、装填されたのは徹甲弾であった。徹甲弾では敵の正面装甲は貫けない。

 そして、敵の砲塔が動くのをやめた。

 「イカン、全員脱出!!」

 大森大尉の命令と共に、車内の全員が脱出を図った。彼女も砲塔側面のハッチから脱出した。しかし、それと同時に敵の砲弾が命中した。

 彼女は爆風で地面に叩きつけられた。

 しばらくして起きあがってみると。さっきまで自分の乗っていた車両が紅蓮の炎に包まれていた。他の2両も同じく燃えあがっていた。

 彼女は自分以外に誰か生存者がいないか辺りを見回した。

 そして、視界に倒れている人影が入った。近づいて見ると。装填手の三木一等兵であった。

 「大丈夫か、三木一等兵」

 彼女は倒れている三木一等兵を抱き起こした。

 「…・わ・たなべ・さん」

 三木一等兵がかすかに唇を動かし言った。

 「しっかり!!」

 彼女がなんとか励まそうとする。しかし

 「…・し・にたく・・ない」

 それを言い終え、彼女は永遠の世界に旅立っていった。

 「三木一等兵!!!」

 彼女は三木一等兵を揺さぶったりしたが、もうどにもならなかった。

 「おーい」

 そこへ大森大尉が走ってきた。

 「おお、渡辺。生きておったか、よかった。ん!」

 彼も三木一等兵の遺体にきづいた。

 「三木一等兵…・・さあ、逃げるぞ渡辺!!」

 だが、彼女は動じない。彼が見ると、彼女は泣いていた。

 大森大尉はそんな彼女にびんたをお見舞いした。

 「逃げるぞ、いつまで泣いているんだ。死人はもう戻らん。だが俺達は生きている。生きているものが生きんでどうする。さあ早く、もう敵は直ぐ側だ。」

 そういい、大森大尉は走り出した。そして、彼女も続いて走り出した。

 「ごめん。三木一等兵」

 そう何度も繰り返し言いながら。

 戦場からいくらか離れ、二人は木の下で休んでいた。

 「大尉、隊はどうなったんです?これから我々はどうするんです?」

 彼女は今一番知りたい事を大森大尉に聞いた。

 「あん、隊がどうなったかって、お前も見ただろう。こっちは全滅だ。俺はしばらく辺りをみたが、生き残ったのはどうやら俺達だけみたいだ。まあ、二人だけじゃしかたない。一番近い味方の陣地に行くだけだ」

 「そんな…」

 味方全滅、これは彼女が一番知りたくなかった事だ。つい数時間前におしゃべりしていた仲間達があっというまに消えてしまったなんて。

 彼女は今にも泣き出したい気持ちだった。それを見て、大森大尉は言った。

 「なあ渡辺、今回戦死した三木一等兵を含む11名の事は非常に残念だった。だがな、戦死者は二度と帰ってこない。まして、ここは戦場だ。感情を取り乱す事は即、死へ繋がりかねん。ここは辛くても絶えるんだ。そして、生きている者は未来を信じて生きるしかないんだ」

 「はい」

 と、彼女が言った途端。敵の偵察機が上空を通りすぎた。

 「く、こりゃ夜まで迂闊に動けんな。取り敢えず、洞窟(現地語ではガマ。以後この言葉で表記)にでも隠れて夜を待つしかないな」

 という訳で、彼らは夜まで身を潜むガマを探す事にした。

 約10分後

 彼らはガマを見つけた。が…

 「し!!動くな」

 ガマに入ろうとした彼女を大森大尉が止めた。

 「どうしたんです大尉?」

 「人の気配がする」

 「え!!」

 彼女には全くわからなかった。

 大森大尉が、ためしに石を奥に向かって投げてみた。

 すると…・

 「いて!!」

 男の声がした。どうやら中にいるのは日本人のようだ。

 二人はガマに入った。

 「おい!そこにいるのは誰だ?」

 大森大尉が奥にいる人物に向かって言った。

 「あんたら日本人か?」

 再び奥から声がした。二人は警戒しつつ中に入っていく。そして少し入った所で、二人の目の前に、曹長の階級をつけた若い男が現れた。

 「あ、大尉殿でしたか、失礼しました」

 男は大森大尉が上官と判り直立不動になって敬礼した。

 「殿は別につけんでいい。それよりお前は?」

 「は、帝国陸軍曹長、榊允であります」

 直立不動のまま、榊允と言った男は言った。

 「敬礼はもう解いて良い。それより、貴様こんな所で何をしている?」

 彼は敬礼を解いて言った。

 「は、自分は速射砲隊に所属していましたが、敵との交戦で皆ちりぢりになってしまい、やむなく自分は夜になるのを待つため、ここに隠れていました」

 そこまで言った時、榊曹長は渡辺軍曹に気付いた。

 「大尉殿、そちらの娘さんは誰で有りますか?保護した民間人ですか?」

 その言葉に、彼女はムッとなった。

 「こいつは俺の部下だ」

 「へ!!」

 「帝国陸軍軍曹、渡辺有紀で有ります。曹長殿」

 彼女は精一杯の皮肉を込めて言った。まあ、陸軍の女子用制服は一般女性ののモンペ姿に、階級章が肩に付いているだけのようなお粗末な物だから、少し暗いガマの中で間違えるのも無理ない。(海軍が専用の制服を新たに仕立てたのとは大違いだ)

 「あ、失礼。いや女子軍人がいると言う噂は聞いた事が有りましたが、まさか本当にいるなんて、しかもこんな綺麗な方だったからなおさら」

 「え!!」

 その言葉に、彼女は驚き、眼鏡の奥の目が点になった。今までそんな事を言われたことは無かったからである。しかし、はっきり言えば彼女はかわいい。ま、これは仮性半陰陽者のだいたいに言える事なのだが。

 「あ、いえ、まあそれよりも大尉殿たちはどうしたんですか?」

 「殿はいらんて言っただろ。俺達は戦車隊だ。敵戦車と交戦してな、2両を撃破したものの反撃されてな、結局生き残ったのは俺達だけだ」

 大森大尉が面目ないと言いたげな表情で言った。

 「そうですか。それはお気の毒に。しかし、現在敵と交戦している部隊は皆同じ状況でしたよ。しかし、なぜ味方はこんな散発的な攻勢にしか出ないのでしょう?」

 彼が大森大尉に聞いた。

 「ああ、多分味方は敵を内陸に引き込んで持久戦に出るつもりだ。まったくこれが硫黄島みたいな所ならともかく、一般住民がいる状態でやるなんて、どうせ本土の連中は俺達を時間稼ぎの駒にしか考えていないんだ」

 大森大尉が吐き捨てた。

 しかし実際の所、帝都にある日本本土防衛軍総司令部(総司令 石原莞爾陸軍大将、参謀長 富岡定俊中将)は沖縄を見捨てた訳ではなかった。

 この前日から既に反攻は開始されていた。九州の陸海軍航空部隊は有るだけの偵察機を出して敵戦力の把握に勤めていた。また、海軍の潜水艦部隊は攻撃を開始していた。

 この時使われたのは、友邦独逸よりの技術供与により完成した全自動追尾魚雷「回天」であった。(言っておくがどこぞの世界の多くの若者を死に追いやった人間魚雷ではない)

 この魚雷は炸薬1,5tの大型魚雷で、伊号潜なら4又は6発積めれて、この作戦では4隻ぶんの24本が実戦投入され、最初に伊−58潜より発射された6発は、軽空母1、軽巡1、駆逐艦3を轟沈させている。

 その後の戦果を合計すると、正規空母1撃沈、1大破、軽空母2撃沈、戦艦1撃沈、重巡2撃沈、軽巡3撃沈、駆逐艦7撃沈。その他数隻撃破という大戦果収め、この後大増産される事になる。

 また、九州では各航空基地に精鋭部隊を展開させていた。

 陸海軍特攻、通常攻撃機あわせ600機、護衛機360機、その他の作戦機120機を集めていた。

 また海軍の、戦艦「大和」を旗艦とする、宇垣中将指揮の戦艦4、重巡2、軽巡2、駆逐艦12の第二艦隊。空母「信濃」を旗艦とする松田中将の空母7、戦艦2、重巡2、軽巡3、駆逐艦10の第三艦隊。空母「陸奥」を旗艦とする、大村少将の空母3、戦艦1、駆逐艦8の第七艦隊。重巡「高雄」を旗艦とする木村中将の重巡2、軽巡2、軽空母3、駆逐艦5、海防艦6、給量艦1、潜水母艦1の第11艦隊

巡洋戦艦「クナイゼナウ」を旗艦とするレーダー元帥指揮の、巡洋戦艦3、重巡2、軽巡4の独逸遣日艦隊がそれぞれ出撃の時を待っていた。

 

 「まあ、大尉殿。今更悔やんでもしかたがありません。ひとつ、軍人は忠義を尽くすべし。…………もう一人や二人の力じゃどうにもなりません。前向きに行きましょうや。それよりも、もう1300(ひとさんまるまる)を回った事ですし、飯にでもしませんか?」

 「!!」

 二人は驚いた。この頃の日本の食糧事情は悪い。ましてや、彼はさっき戦場から逃げてきたと言った。そんな男に他人に譲る程の食料が有るのだろうか。

 「ま、こちらへ」

 そう言い、彼は二人をさらにガマの奥に案内した。

 そして、奥に着くと、彼は足下に集められていた木に火をつけた。そして、その火に多くの物が浮かび上がった。

 あるわ、あるわ。乾パンの袋に、日米関らずの沢山の缶詰、チョコレート、そして米まであった。

 二人とも唖然としてしまった。

 「おい、なんでこんなに沢山の食料を持っているんだ?」

 大森大尉が驚愕した表情で榊曹長に聞いた。

 「ああ、逃げる際に生存者がいないか探し回りまして、その際目に付いた食料を全て集めました。後,ほら、そっちには敵さんの小銃や手榴弾もありますよ。そいつもついでがてら持ってきたんです」

 そう言われ、二人が彼の言った方に目を向けると、確かに、そこに1挺のM−1ライフルと2個のアメリカ製の手榴弾が転がっていた。

 二人はとんでもない男に出会ったのではという思いがした。

 

 

後編(中編の可能性有り)に続く…・・

 

 

後書き

 

どうも、また本編をほったらかして外伝を書いてしまった。ま、一応本編の未来を暗示し、読者に沢山の予測をしてもらいたいという目的を一応持たせているのですが…・ま、とにかく前編完成。また1話だけのつもりが長くなってしまった。

 とにかく、この後3人にはある戦車で活躍してもらうつもりです。乞うご期待を。

 

 

 

参考文献  ラバウル烈風空戦録15(中央公論社) 艦船名鑑(コ−エー)、あの戦争下

(集英社)

 

広告 [PR] 紅葉めぐり わけあり商品 ヒートテック 無料レンタルサーバー ブログ blog