白百合部隊外伝 「誕生の時」 山口多聞作
これは、日本の女性が、初めて戦場に出ることになった。海軍独立飛行部隊、特別女子報国飛行部隊、通称白百合部隊の創設の様子を、当事者の一人として、それを後世に伝えるため書き示した物である。
1942年2月 東京
この日、東京の霞ヶ関にある海軍省の一部屋に、三人の男がいた。一人はテーブルを挟んで窓側に、残り二人はドア側に座っていた。
「川内中佐。これは一体何かな?」
ドア側に座っていた一人が、何かレポートらしき紙束を持って、川内と呼んだ窓側の男に向かって言った。
「はい?」
川内と呼ばれた男が言った。
彼の名は川内友幸。海軍中佐だ。
「何とは、一体どう言う事ですかな?」
彼は冷ややかにテーブルの反対側に座っている男、門松中佐に向かって言った。
「ほう、判らんか。君が出したこの意見書。女子の軍人登用の必要性についてだ!!」
門松中佐が怒鳴りながら言った。
「それが何か?」
川内中佐が再び冷静に言った。
「ふざけるな!!」
川内中佐の態度に、門松中佐がきれた。
「いいか、誇り高き我が帝国海軍は創設されてから一度も女子禁制を破った事はない。陸軍も同様だ。そして、女子と言うのは妻になり、母になり、銃後を守る者だ。第一、女子は体力的に軍人に向かないのは誰にでも判り切っている事だ。」
門松中佐は再び怒鳴っていった。今の時代では明らかに性差別と受け取られる言葉だが、この頃は常識だった事だ。
「自分はその意見書で、そういう考えは時代遅れだと書いたはずですが」
さっきと変わらぬ態度で川内中佐は言った。
「何お!!」
門松中佐が机を叩いて立ちあがった。
「やめろ」
そんな彼を、今まで黙っていたもう一人の男。宮崎大佐がとどめた。
「大佐!!」
「川内中佐。何故、君は女子軍人の登用という考えを思いついたのかね?」
宮崎大佐は優しい口調で言った。
「自分は、戦前各国の軍の視察をしました。そして、米英ソ等の各国では女性が軍人に採用されていました。これは充分女子でも戦力になる事を教えてくれました。それに、もはや近代戦では銃後は有りません。現に我々は重慶への爆撃を行いました。あれは一応戦略拠点への攻撃でしたが、民間人に多数の死傷者が出たのは事実です。それに我が陸軍は多数の村で、現地調達と名の付く強奪と、民間人への無差別攻撃を行いました。そして、恐らくそれは我が国にもいつか起こり得る事態になるでしょう。それなら、むざむざ爆撃を受けるよりか、軍人になってもらって、戦ってもらう方が良いです。」
今回、彼が出した意見書は、女子を兵として採用するという、この男尊女卑が強い時代での日本では無謀極まりない意見であった。しかし、確かに米英ソ等では女子兵は存在した。特にソ連のリリヤ・リトビャクは女子でありながら、12機撃墜を誇るエースだった。つまり、女子兵はそれなりに先見性、有用性を持った意見では有った。が
「馬鹿をいうな」
そう嘲ながら門松中佐が言った。
「確かに、外地ではそうかもしれんが、ここは内地だ。敵が攻めてこられるはずがあるまい。我が国は神州不滅の大日本帝国である。もし来ても、かつての元冠の様に必ずや神風が吹くさ」
なんとまあ、今の時代にして見れば馬鹿げている。しかし、この時代の日本人なら言いそうな言葉だ。何せ学校でそう教えるのだから。
「ふん、この科学戦の時代に、馬鹿げている」
川内中佐が馬鹿にしながらそう言った途端、門松中佐が顔を真っ赤にして立ちあがった。
「な、何だと貴様!!!」
今にも殴りかかりそうだったが、
「やめんか!!」
宮崎大佐が怒鳴った。さすがにこれには逆らえず、二人とも静かになった。
「川内中佐。確かに君の意見には先見性がある。それは認めよう。だが、現在帝国は勝利の連続だ。とてもここまでやる必要はない。つまり、現在の所は考慮できる物ではない。」
この言葉に、さすがに川内中佐もうなだれた。
「だが、一応この意見書は俺が預かっておく。それでいいな」
この言葉に、川内中佐は立ちあがり宮崎大佐に敬礼して言った。
「よろしくお願いします」
その後、この時の事が響いたのか、彼は練習航空隊の飛行長等の閑職ばかりにつかされることになる。
だが、その後帝国は、6月のミッドウェー海戦、ガダルカナル周辺の戦いで大きく戦力を消耗し、次第に連合軍に追い詰められ始めることになる。特に航空戦力、とりわけパイロットの消耗が予想以上の物だった。そして…
1943年4月、彼は東京に呼び出された。
出頭した海軍省で彼を迎えたのは、あの宮崎大佐であった。
「川内中佐。君を呼び出したのは他でもない。知っていると思うが、米軍の予想以上の進攻により、我が軍は大きくその戦力を失いつつある。特に航空戦力が著しい。現在飛行予備学生を募集しているが、連合国と我が国との人口比を考えれば到底賄いきれる物ではない。そこで現在の状況と、他国での女性飛行兵や、女子兵の活躍を考慮した結果、我が軍でも女性軍人の登用を決めた」
これこそ、川内中佐の待っていた言葉であった。
「そうですか」
彼の声は元気一杯だ。
「ただ・・」
「ただ?」
「ただな、一応、上にも体裁って物が有るからな、あくまで軍人ではなく軍属としての採用だ。よって全員最初は特務の字がつく。そして…」
「そして?」
「うん、どこから人員を集めるかだ。一応これは極秘の内にやるらしいからな、まさか女学校や小学校の高等部に呼びかけるわけにいかん」
深刻そうな顔つきで宮崎大佐は言った。だがそれに対し、川内中佐は微笑みながら言った。
「それについてはもう考えてあります」
「何!?」
宮崎大佐が鳩に豆鉄砲を食らったような顔をした。
「我が国には、戦前飛行ライセンスをとった女性がそれなりにいたはずです。彼女らに呼びかけてみましょう。そして…」
「そして?」
「我が国は仮性半陰陽者という、国に管理された女性たちがいます」
「おお!」
仮性半陰陽者はこの世界の日本のみの得意な病気(?)だった。ただ、発症者がそれなりに多い事から、国は彼女らが社会進出し易いようにと、教育施設に入る事を義務付けている。
入る年はそれぞれまちまちだが、対外12から14歳程度で発症することが判っている。またここに入っている期間もまちまちで短いと4年、長いと8年だったという。教育内容は一般には明らかにされていないが、ただ、ガキ坊主で入った者が淑女に成って帰ってくると言われた程凄まじい物だと言われていた。ちなみに、このころ(1943年ごろ)は全国10の施設に約二千人が収容されていた。
「それに、孤児院とかも当たってみましょう、ただやはり通常の軍人と同じ年頃の者が良いですからね。」
「よしわかった」
こうして、人員集めの方法は決まった。
そして、その後細かい調整がいくらか有ったが、とにかく二画、三角、四角(これはうちの学校の先生が使い古したギャグ)1943年6月。正式に海軍特別女子飛行部隊、通称白百合部隊は発足した。(表向きは、飛行機の性能評価の実験部隊)。また、基地は愛知の本地ヶ原飛行場に決まった。
同年7月、現地にて部隊開き。司令官には、今回現役復帰した槙野八十八少将(68歳)が就任した。
また教官役として、三人の現役軍人が就いた。
まずは木宮大尉。彼は開戦依頼のベテランであったが、列機が5度連続戦死したため、前線を離れ、内地の練習部隊に飛ばされていた所を、槙野少将の力を使って引きぬいたのであった。また、彼自身これまで女性に恵まれなかったから、女子ばかりの隊にいける事に喜んだらしい。
2人目は大野二飛曹。彼実は男色で、以前いた部隊で間違いを起こし1階級降格の上、営倉入りしていたのを拾ったのであった。また向こう側も厄介者の始末が出来たので喜んで差し出してくれた。ただ当の本人は、男がいない環境をいやがったらしい。
3人目は山崎満中尉。彼は元空母瑞鶴戦闘機隊の隊長だったが、理不尽な上官との喧嘩で相手に重傷を負わせたために、海軍刑務所に入っていたところをやはり槙野少将の力で引き抜いたのであった。
その他に、50名の整備員や基地防衛のための陸戦隊員が集められた。
そして、肝心の隊員は20名が集められた。この内16名が仮性半陰陽者であった。
彼女らは当初、輸送機のパイロットとして、93式中練を使っての初等訓練を行っていたが、その後めきめき実力をつけ、翌年春頃からは練習戦闘機を使っての戦闘機搭乗員として訓練を行うようになった。その頃には、隊員は40名に増えていた。
そして、1944年9月。彼女らに前線移動命令が出た。移動先は、フィリピン近海に作られ、破棄された秘密飛行場であった。
そして、第1陣に選抜された7名は、今回部隊前線行きに用意された、試製零戦33型に乗って南海の空へと出発していった。
彼等の活躍は皆さん良くご存知の事だろう。
帝国の女性が戦場に出た時 元海軍大佐 川内友幸著 1972年帝国文庫発行より抜粋
<完>
後書き
テストがやっと終わりました。今回の作品どうでしたか?まあ、ちょっと慌てて書いたんで短くつまらない作品かもしれませんが、一応白百合部隊の生い立ちを簡潔に書いたつもりです。
さて、次回は番外編<白梅部隊の戦闘>をお送りする予定です。乞うご期待
参考文献
平成愚連艦隊 コスミックインターナショナル発行
おまけ
試製零式艦上戦闘機33型データ
全長9,5m 全幅11m 自重2800kg
速力532km 航続距離1500km
武装20mm2基 7,7mm2基
発動機 川崎マリーン11型 1100馬力
白百合部隊用に特殊改造された零戦32型のエンジン変更、並びに操縦系統に油圧式シリンダーを用いて操縦性向上を目指した。
作中世界での史実との違い
作中では紹介していませんが、レイテ沖海戦は引き分けで終わっています。日本側は出撃直後、重巡「愛宕」とともに栗田中将が戦死し、代行した宇垣中将の指揮のもと、敵護衛空母部隊を2個殲滅し、さらにオルデンドルフ中将の旧式戦艦部隊を全滅させたものの、弾薬がそこできれ、後は史実どうりです。ただし「金剛」は健在。
また小沢部隊はハルゼ−の攻撃で3空母を失いますが、「瑞鶴」はスコールに逃げ込み助かっているとします。
また、あの「回天」は…・・
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