南方独立飛行部隊、白百合部隊  第七話「強襲」

 昭和19年12月20日 白百合部隊基地上空

 グオ−ン!!

 「くっ!!」

 この日、2機の飛行機が3000mの空中で熾烈なドッグファイトを展開していた。

 飛んでいるのは2機の機首が黒く、胴体が零戦と同じ色に塗られた四式中練である。現在、1機がもう1機に追いかけられている状態に成っていた。

 その追いかけている側の機体に乗る白百合部隊第三空戦隊第二小隊隊長の紺野一子一飛曹はこの日何度目かわからない悪態をついていた。

 彼女は、この時点で何度か照準機内に目標を捕らえたものの、写真銃のボタンを押す前に、目標は横滑り等の機動をして逃げられていた。

 その目標である機体は、彼女の恋人である白百合部隊第三空戦隊第一小隊隊長の榊潤一飛曹が乗っているのであった。

 「さすが榊一飛曹、やるじゃん。けど、そろそろ疲れているんじゃない」

 少し動きが鈍った恋人へ彼女はそう言っていた。

 

 さて、なぜこの二人が練習機で模擬空戦しているのかと言うと、事の始めは榊一飛曹が言った言葉だった。

 この数日前、米軍との空戦で初の戦死者をだし、白百合部隊の面々は意気消沈していた。それを払拭しようと、榊一飛曹はこの日の朝、部か3人に向かって以下の事を言った。

 「今日の訓練は俺がカモになる。新米の二人が先発、紺野一飛曹が後発で俺と同位戦を行う。俺を写真銃に捕らえられたやつには1円やろう。しかし、逆に俺に捕らえられたら1円を俺に出すように。ただし、この賭けについては自由とする。やりたくない奴はやる前に言うように。」

 そして、全員が乗った。新米二人組も、例え飛行時間が自分達の倍の榊一飛曹でも勝てると思ったらしい。

 そして第1戦、榊一飛曹はP−66,新米二人はキ−60で対決したが、あっさりと新米組が負けた。

 二機は榊機をがむしゃらに追いかけた挙句、捻りこまれてしまったのだ。

 彼らは泣く泣く、榊一飛曹に2円を払う結果になった。

 そして、紺野一飛曹と戦う事になったが、二人とも乗っている機が違うため、急いで整備員に言って四式中練を出してもらい、それで戦っていた。

 「よし」

 遂に、彼女は照準機のど真ん中に彼の機を捉えた。

 「1円いただき」

 彼女がそう言い、写真銃のボタンを押そうとしたとき、榊機がいきなり照準機から消えた。

 「え!ど、どこに消えた!?」

 彼女は困惑し、風防から辺りを見回した。しかし、彼の機影はどこにも無い。

 「う、嘘!」

 彼女がそう言った時。

 「バンバンバン!」

 「え!!!」

 受に入れてあった無線機から榊一飛曹の声が入った。

 「はははは、紺野一飛曹、1円はもらったよ」

 榊一飛曹の声が再び入ると同時に、彼の四式中練が彼女の機の真横に現れた。

 「さ、試合終了。帰るぞ」

 「ううう…・・」

 彼女は悔しさの余り、何も言葉をいえなかった。

 「榊一飛曹!」

 紺野一飛曹は着陸すると、機から降りた榊一飛曹に駆け寄った。

 「おお、紺野一飛曹。後でちゃんと1円払えよ」

 榊一飛曹は振り返って彼女に向け言った。

 「それはちゃんと払いますけど。それよりさっきのはなんですか?」

 彼女は1円を奪われた事よりそっちの方が気になってしかたがなかった。

 「うん?あ、さっきのか?あれはな、世に言うインメルマンターンだ」

 「え!」

 インメルマンターン。それは第1次世界大戦中、独逸空軍の撃墜王、インメルマン少佐によって編み出された、特殊機動の一つである。空戦小説の中では結構有名な技だ。

 「いったいどうやるんですか?」

 彼女が榊一飛曹に聞いた時。

 「搭乗員、作戦室に集合!!」

 スピーカーから命令が発せられていた。

 作戦室

 「榊一飛曹入ります!」

 「紺野一飛曹入ります!」

 二人が中に入ると、槙野少将に木宮大尉、そして先日やって来た陸軍の二名を含む全搭乗員が集まっていた。

ちなみに陸軍の二人が持ってきた二機(隼と疾風)は整備法の違いから整備員達に厄介者扱いされている。陸軍と海軍の機体はまったくと言ってよいほど違う。まず陸軍機のスピード表示はkmだが、海軍はノット。またスロットルの向きも逆である。さらに機関銃の弾丸も共用出来ない。ここまで来ると何を考えているのか全く判らん。

 おっと、話しを元に戻す。

 「おう、榊一飛曹。それに紺野一飛曹、仲良く一緒に来たのかい?」

 早速木宮大尉がいじめた。

 途端に二人の顔が真っ赤になる。それと同時に他の隊員がにやけ顔になる。

 「こら、木宮大尉。二人をいじめるのもほどほどにしとけ」

 そう言ったのは槙野少将であった。

 「は、申し訳ありません」

 「やりすぎると、榊一飛曹がまた伝説を作っちまうぞ!」

 槙野少将がそう言うと、陸軍の二人と、榊、紺野両一飛曹を除く全員が爆笑していた。言った本人も少し笑っていた。

 「それじゃあ、後は頼むぞ」

 隊員たちを爆笑の渦に巻き込んだ槙野少将はそう言い、出ていってしまった。

 三分後、やっと笑いがおさまった。そして、木宮大尉の話しが始まった。

 「諸君。今回集まってもらったのは、ある大作戦を実行する説明をするためである」

 その瞬間、部屋の空気がざわっと揺れた。

 「諸君も気になるようだな。まあ確かにこの隊の存亡に関わる作戦だからな」

 再び同じ事が、いやさっきよりも大きく部屋の空気がざわついた。

 「諸君,前回の空戦で我々は2機を失った。さて、その原因は何だと思う?榊一飛曹、思ったことでいい、答えろ」

 指名され、彼はしばし考えた後に以下のような答えを考え付いた。

 「それは、機体の性能、特に防弾力不足だと思います。」

 彼は、前回の空戦で戦死した二人が、いずれもベテラン組であった事、そして前回紅蓮の炎を吐き、空中に四散した水冷零戦の姿を思い出し、その答えに行きついた。

 「その通りだ」

 木宮大尉が頷いた。

 「そう、今我々が持っている機体は1世代前の旧式が多い、特に防弾能力が顕著に低い機が多い。そこで我々は新型の機体を早急に手に入れる必要がある」

 「しかし、どうやって手に入れるのですか?もはや本土からの新機材の補充はもはや不可能なんでしょう?」

 そう言ったのは杉村飛曹長である。彼女の言葉に全員が頷いた。

 「諸君!インパール作戦のさい、陸軍の牟田口中将が何と言ったか知っているかね?」

 木宮大尉のこの言葉に、全員の頭に3つの?マークが点灯した。

 インパール作戦とは、日本軍が印度独立、援蒋ルート遮断を目的とし行い、大敗した作戦である。

 しかしこの男、何故この作戦を知っているんだ!!

 「知らんようだな。よ−し、教えてやろう。それは、敵に糧を求めよだ」

 この言葉に、全員の?マークは1ダースに増えた。

 「つまり、我々はこの言葉どおりに、敵の飛行場を強襲して、戦闘機を強奪してくるのが今回の作戦だ」

 「何!!!!!!!!!!!!!!!」

 木宮大尉の言葉にその場の全員が絶叫した。その声の大きさは凄まじく、基地内の陸戦隊員や、少し離れた滑走路にいた整備員が一斉に振り向いたくらいだ。

 「危険過ぎます!!」

 榊一飛曹が言った。他の隊員たちも当然と言いそうな顔つきだ。

 「そうだ。しかし、勝算はある」

 「どんな?」

 全員が大尉の次の言葉を真剣な顔で聞こうとしていた。

 「前回の空戦で捕獲したB−25があっただろ、あれにはIFF(敵味方識別装置)がついている。あれに乗れば味方と勘違いされて楽に乗りこめるだろう。それに、この日にやれば敵はきっと油断しているはずだ」

 そう言い,大尉は残り少ない12月のカレンダーのひとつの日付を指差した。それを見た瞬間、全隊員達はなるほど頷いていた。

 そして、話は作戦結構日に飛んでしまうのであった。(コラ!!)

 この日夜、彼ら白百合部隊の面々は、捕獲したB−25に乗って、一路米軍飛行場に向かって飛んでいた。

 今回、彼らの目的は敵機の奪取である。しかし、一応破壊工作もやる事にしたため、彼らは一人一本ずつの火炎瓶、そして手榴弾、拳銃一丁(自決用ではありません)を武装していた。

 飛び立って1時間ちょっとが過ぎたが、異常はなかった。この時点で米軍は、レーダー装備の重夜戦、P−61ブラックウィドゥを配備しており、その実力はすごいの一言であった。その強敵にも会わず、彼らは順調に飛行していた。

 「そろそろですね」

 隣に座っていた加賀二飛曹が榊一飛曹に声を掛けた。

 「ああ」

 彼は短く答えた。

 「しかし、いいんですか?」

 「何が?」

 加賀二飛曹の質問の意味がわからず、かれは頭に?マークを浮かべた。

 「恋人に何も言わなくて」

 そういわれ、彼の顔が急速に赤くなった。

 「バカ!変な事いうな!!」

 「失礼しました」

 加賀二飛曹はそれで静かになった。が、榊一飛曹は、彼に言われた言葉が気になった。確かに、紺野一飛曹に彼は何も声を掛けてなかった。

 そこで、声を掛けることにした。(彼女は彼の隣に座っていた)

 「紺野一飛曹」

 加賀二飛曹ああ言った手前、彼はなるべく小さな声で言った。(しかし、実際は加賀二飛曹に聞かれており、後日茶化されるネタになるのであった)

 「なんですか?」

 「気おつけてな」

 彼にはそう言うのが精一杯であった。しかし、彼女は笑顔で彼にこう言った。

 「はい、榊さんも気をつけて」

 

 そして、遂に敵飛行場が見えてきた。途中、米軍の無線が入ったが、英語が使える木宮大尉が敵の夜間哨戒機であるよう見せかけて返答していた。

 「やった。やはり敵は油断している。兵舎や格納庫の光をつけてやがる。これもクリスマスイブさまさまだな」

 木宮大尉が言った。そう、この日は12月24日。米軍はお祝い中のはずだ。だから油断しているはず、それが彼の考えであった。それが大当たりした。

 「よーし、着陸だ!!」

 そして、彼らは戦闘機駐機場とおとぼしき場所に近い滑走路に着陸した。

 脚が地面に付き、しばらく走ったところで、機体は完全に静止した。

 「よーし、散れ!!」

 木宮大尉の命令と共に、B−25の操縦をしてきた二人を除く10人全員が一斉に散った。

 榊一飛曹は先に出た紺野一飛曹に目を少しやると、ぼんやりと見える戦闘機駐機場へ走り出した。

 そして、走ること約20秒ほど。並んでいる戦闘機が完全に視界に入った。

 彼はその機体が放つ銀色の光沢に息を呑んだ。

 ノースアメリカンP−51マスタング。1500馬力級のエンジンながら、とことん空気抵抗を抑え、700km前後の最高速と、3000km以上の航続力を誇り、12,7mm銃6基、ロケット弾6発、または約900kgの爆装を施せ、さらに優秀な格闘性能を持った第二次大戦でアメリカが生み出した傑作機。

 その機体が彼の目の前に、きれいに前後20m、左右15m間隔に並んでいた。

 彼は直ぐに、一番近い機体に掛けより、車輪止めを外し、その後操縦席に潜り込んだ。そして、計器の位置を確認すると(夜行塗料が塗ってあり、以外と簡単に出来た)、再び機外に出た。

 そして、一つ後ろの機体に向かった。ここで、彼は持ってきた火炎瓶を袋からだし、ライターに火を点けようとした。その瞬間

 ドッカン−!!!!

 爆発音が轟いた。誰かが先にやったらしい。すると、

 ウウウウー

 サイレンが鳴り響いた。

 もう一刻の猶予も無かった。彼は火炎瓶に点火し、P−51に投げつけた。

 火炎瓶が辺り、直ぐにその機体は燃え始めた。アルミは燃えやすい金属なのだ。

 そして、彼は直ぐにさっきの機に戻り、すばやく操縦席に潜り込むとエンジンをかけた。

 マリーンエンジンは一発で掛かった。

 彼は直ぐに方向舵等のチェックをすませ、機を走らせ始める。通常は暖機運転する必要があるが、今はそんな事言っていられない。

 彼は誘導を走り、滑走路に機体を出した。そして、スロットルを全開にし、機を滑走させる、300m程走った所で機は浮かび上がった。そして、操縦桿を引き高度をとる。そして、今発進した飛行場を見ると、なんと基地全体の明かりが点いていた。どうやら敵は日本陸軍のゲリラ攻撃と勘違いしているらしい。

 彼はすかさず、機首を敵基地の、爆撃機駐機場に向けた。この機体にはロケット弾が装備されていた事を確認していた彼は、これを有効利用することにした。

 敵爆撃機に照準を定め,ロケット弾を発射した。そして見事命中し、2機が粉々に吹っ飛ぶのが見えた。

 もう一撃を掛けたがったが、無理は禁物だった。彼は高度を上げ、一路基地に向かって飛んでいった。

 そしておよそ1時間後、基地が見えてきた。彼は車輪を降ろす、一応誤射を防ぐためだ。

 そして、無事着陸した。こうして、この日の彼の仕事は終わった。

 その後1時間の内に、全員無事に帰還した。

 作戦成功、そして遂に手に入れてのだ。たった10機ながら、最新鋭の戦闘機を。

 後に明かされたこの日の戦果は、戦闘機24機が奪取または完全破壊。その他に爆撃機10機に被害が出た。つまり、白百合部隊の完勝だった。彼らは前回のリベンジを見事成し遂げたのであった。

 この後、彼らは敵の逆襲に備えた。しかし、いつまでたってもそれはなかった。結局、彼らは一度もその後敵と戦闘しないまま、正月を迎え、撤退の日に至るのである。

 何故敵の逆襲が無かったのか?

 実はこの数日後、木村昌福中将指揮の重巡「那智」「足柄」軽巡「大淀」「鬼忍」「木曽」

駆逐艦6隻を中心とする艦隊がサンホセ島に突入、同地にて揚陸中の輸送船、魚雷艇、上陸部隊を全滅させるという事態が起き、米航空隊は白百合部隊どころではなくなった。またこれ以後も、シナ海への輸送船攻撃に必要のため、彼らは白百合部隊へ全く攻撃出来なかったのだ。(中国沿岸の飛行場が、再発した内戦で使用不能のため)

 こうして、南方独立飛行部隊としての彼らの活躍は終わりを告げることになったのであった。

<完>

後書き

 やっと完成しました。この話で、ひとまず、第一シリーズは終わりです。次回からは彼らは本土にて戦闘します。しかし、作者はこれからテストなどとても書く暇がない!!というわけで、皆さん気長に待ってください。

 最後に一言。第二次大戦にて、その尊き命を散らした全ての人々の冥福を祈るとともに、彼らの後世が幸多き物に成ることを強く祈ります。

皇紀2664年11月14日

参考文献

 旭日旗征く(学研) スカーレット ストーム(銀河出版)

 この話はフィクションです。史実と混同しないよう注意してください。

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