南方独立飛行部隊、白百合部隊  第5話「嵐の前の静けさ」

昭和19年 12月初旬

 新兵が着任し、基地では彼らに対しての歓迎会が行われていた。そんな中、また榊一飛曹はあの切り株に腰を降ろしていた。

 「榊さん」

 星を見て一人ぼーっとしていた彼に、誰かが声を掛けた。彼が振り返ると、紺野一飛曹が立っていた。

 「なんだ、紺野一飛曹か。なんだい、また僕を呼びに来たのかい?」

 「ええ、それもあるんですけど…・あの、隣に座っても良いですか?」

 それは彼にとって予想外の言葉であったが、別に彼にとって不都合があるわけではないので、彼は承諾することにした。

 「ああ、いいよ」

 そう彼が言うと、彼女は彼の隣に腰を降ろした。

 しばらく沈黙が続いた。彼女は何も言わず黙ったままで、さっきの会話にどこかよそよそしさがあった彼女を彼は不審に思ったが、彼自身から何か話しをする事も、雰囲気も()なかったので、彼は何も言えなかった。

 約5分後

 「あの…」

 紺野一飛曹が唐突に口を開いた。

 「うん!?何?」

 「榊一飛曹は、私の事をどう思いますか?」

 彼女の思いがけない質問に、彼はしどろもどろになりながら返事した。

 「え、そ、その……・・別に嫌いじゃないよ、でもどうしてそんな事聞くんだい?」

 彼がそう言い彼女を見ると、彼女の顔は真っ赤だった。(おお、これはもしや)

 「え、はい、それは、その…・・ああもうこうなりゃやけだ。」

 どうやら彼女は決意したようだ。(おおお!)

 「わ、私…・・あなたが好きです!」

 彼女が立ちあがって言った。

 「………………・・はあああああ!!!!!」

 一瞬、何が何だか解からず彼は沈黙したが、数秒後彼は叫んでいた。まあ、女が苦手な自分がこんな戦場である南海の孤島で美人の女性から告白を受けるなんて、普通この時代だったら空前絶後、前代未聞、驚天動地、明日の天気は雪かと思えるような事態に違いない。

  最初こそ驚いたが、直ぐに悪い冗談だろうと彼は考えた。

 「ははは紺野一飛曹、冗談はよしてくれよ」

 彼は笑いながらそう言ったが、彼女の顔は真剣その物だった。

 「冗談なんかじゃありません!!」

 彼女が言った。

 「私だって最初は信じられなかった。5年前に女になって、その後国の施設で女としての教育を受けた後も男は同性と思っていた。(この世界の日本では、仮性半陰陽者は自立支援のためという理由で、国の施設に入る事が義務付けられていた。)けど、あなたに初めて会った時から、胸が苦しくなって、あなたの事を忘れられなくなった。本当にあなたの事が好きなんです」

 そう言われ、榊一飛曹はしばらく考え込んだが、直ぐに顔を上げ、彼女に向かってこう言った。

 「ありがとう紺野一飛曹……・その気持ちは胸に留めておくよ、けど…・今は受け入れられない」

 その言葉に、紺野一飛曹の顔表情が暗くなった。

 「そうですか……そうですよね。私みたいな元男なんかの女なんて嫌ですよね」

 「違う!!」

 彼が立ちあがって叫んだ。そして、訂正する。

 「僕はそんな事であなたを差別する気は毛頭ない。そうじゃなくて、今は待っていて欲しいという事。今は知ってのとおり戦時中だ。いつ死ぬか解からない。とても恋人を作る気にはなれない。だから今はまだ返事は出来ない。けど…・」

 「けど?」

 「けど、この戦争が終わったら、必ずあなたの気持ちへの返事はします。…・それまでは戦友として、…同じ隊員としてよろしくお願いします」

 そう言い、彼は手を差し出した。

 「榊…さん」」

 そう言って、彼女も手を差し出した。

 そして二人は固い握手をした。(おお、某ジブリ映画みたいだ)

 榊一飛曹はその時、それまでの人生で最高の時間が来たと思っていた。だが、そういう時間は長続きしない物だ。

 「ハックション!!」

 唐突に、誰かのくしゃみが聞こえた。

 「誰だ!?」

 「誰!?」

 二人が振り向くと、木宮大尉以下8人が木陰に隠れていた。

 「ばか!なんでくしゃみなんかするんだ」

 「す、すいません」

 木宮大尉がくしゃみをした犯人らしい新米の加賀二飛曹に怒鳴った。

 「あんたら、こんな所で一体何しているんですか?」

 「いや、その…紺野一飛曹が外に出て行ったもんでなあ、ちょうどお前もいなかったし。だから気になって追ってみたんだが.いや、けして下心があった訳ではないんだ。あははは…・・」

 木宮大尉が笑って言い訳したが(全員で来ているのでは言い訳にならんぞ)もう遅い。

 ゴゴゴゴ……・パチパチ……・・

 榊一飛曹の周りには怒りの炎が。

 「う…全員、基地内に退避!!」

 木宮大尉がそう叫ぶないなや、覗き見していた全員(パイロット全員)が一斉に四方八方へ逃げ出した。以下のような言葉を二人に送って

 「いやあ、二人とも良い雰囲気だったな」と木宮大尉

 「やっぱ付き合っていたんだ」と大野二飛曹

 「紺野一飛曹たらうらやましい」女性隊員の誰か

 「待たんか、おのれら!!」

 それを追う榊一飛曹。結局こうして、またも紺野一飛曹は一人取り残された。

 こうして、この後延々3時間に及ぶ大鬼ごっこが展開されることになる。(後に隊の伝説になった。ちなみに彼は一人も捕まえられなかった)

 

 白百合部隊の面々がそんなばかな事をやっている頃、帝国本土では御前会議が行われていた。

 この頃、既に東京等の日本各地へのB―29による空襲が始まっており、またこの少し後には、中京方面の航空産業が壊滅するに至る事になる。

 この会議では、昭和20年度の戦争方針が話し合われた。

 陸軍は、一億玉砕、本土決戦を唱えたが、あろう事か海軍の豊田海相は上海、香港、満州を除く中国全土からの撤退を進言した。また外務大臣もこれに賛成した。(史実と違います)

 むろん陸軍は猛反対した。中国での戦いは足掛け8年に及んでおり、すでに犠牲者も相当数出ていた。それなのに撤退しては英霊達に申し訳なく、それに軍や日本の面子に関わると言うのだ。

 その後、激しい議論の末、結局非戦を望む天皇陛下の以下の言葉で決着ついた。

 「朕思うに、一億玉砕は望む所ではない。それを回避し、帝国臣民を護りきれる可能性が高まるなら、朕は恥を掻いても構わない、英霊達にも謝ろう。出来れば、軍も面子を捨ててほしい」

 この一言で、ついに陸軍側は折れ、中国からの撤退が決定し、12月末には開始される事になる。

 この御言葉は新聞にも載せられ、多くの国民が涙したと言われている。

 だが、これが与えたインパクトは国内だけに留まらなかった。この中国からの日本軍撤退により、中国では内戦が再発。そのため、国民党支援のアメリカと、共産党支援のソ連との間の外交関係が悪化する事になる。これは後に、ヤルタ、ポツダム両会談の破談、ヨーロッパでの米ソ両軍の偶発的戦闘が起こるなどの事態を誘発する事になる。

 そんな事も露知らず。翌日から白百合部隊では新入りのためへの猛訓練が始まっていた。今回の補充兵達は、いずれも飛行時間120から130時間の未熟者だったため、毎日猛特訓になった。(ちなみに、榊一飛曹は430時間、紺野一飛曹は400時間、木宮大尉は1200時間)

 そして、新たに加わった仲間と共に、新たに編成替えが行われた

 編成は以下のとおり

 白百合部隊連合空戦隊編成表(と言ってもたった12機)

第一空戦隊

第一小隊 木宮大尉 杉村飛曹長   第二小隊 柿崎上飛曹 沖田飛兵長(新入り 女)

第二空戦隊

第一小隊 近藤少尉 大野二飛曹   第二小隊 宮野二飛曹 足立飛兵長(新入り 女)

第三空戦隊

第一小隊 榊一飛曹 加賀二飛曹(新入り)  第二小隊 紺野一飛曹 浅井飛兵長(新入り)

 こうして、新装開店(!?)した白百合部隊は訓練を行いつつ、敵を待った。しかし、それから10日間、敵機の来襲はなかった。そう、嵐の前の静けさの様に。

 第6話「猛攻」に続く

 あとがき

 やっと完成第5話。いよいよ次回、久しぶりの空戦が…と行きたい所ですが、次回は番外編「廣島」を書きます。このシリーズでは、第10話辺りで彼らがフィリピンより引き揚げ、本土防空戦に従事していくという話にする予定です。この外伝は、その本土帰還後の榊一飛曹のエピソードを書く予定です。それでは…以下次話!! 

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