南方独立飛行部隊、白百合部隊 第三話 ペロハチ
高度4000m。機速310ノット。発動機、機体異常なし。榊潤一飛曹の愛機零戦54型は順調に上昇し、増速する。既に基地を飛び立ち5分は経過した。島は薄っすらとしか見えない。
「ん!!」
付近を見回していた彼は、高度3500m程を飛行する編隊を見つけた。その編隊は12機編成で、島めがけ飛行していた。彼は目を凝らした。
「ペロハチが12機か」
ペロハチ…米陸軍P―38ライトニング戦闘機、昭和17年のソロモン戦線で登場して以来、帝国陸海軍航空隊の仇敵、昭和18年4月18日の山本連合艦隊司令長官暗殺事件で使用された機体。
「今あいつらを島の上空に行かせると厄介だな」
まだ後続機は離陸中のはずだ。離陸中の飛行機程やられやすい物はない。それに偽装滑走路が見つかるかもしれない。
「ここは」
彼は操縦桿を傾け、急降下に入った。
P−38も影が大きくなり、機速が上昇する。
そして、先頭を飛ぶ3機めがけ発砲した。
主翼に装備された13mm機銃と、20mm機関砲から弾丸が飛び出し、四本の線を引いた。
「墜ちろお!!」
そして、敵編隊の側を急降下で一気に通りすぎた。
「よっしゃあ!」
彼が振り返ると2機が黒煙を吐き出しながら墜落していった。どうやら闇雲に撃った弾がまぐれ当たりしたらしい。
「ざまあみろ!」
しかし、彼が浮かれていられるのも僅かな間だった。
「げ!」
見ると、4機が彼を追っかけてきた。残りは行ってしまったようだ。
「畜生、しゃあない。ここ反行戦だ」
彼は機体を切り返し、上昇に入ろうとした。その時、敵機が翼を翻し、別方向に向かって行くのが見えた。
「何だ?」
彼が敵機が向かっていく方に目をやると、数機の機影が見えた。
「お、みんなが来てくれたか」
それは、白百合部隊の全力出撃してきた隊長機以下の機影だった。
空中で白百合部隊が空戦を行っている頃、基地の対空陣地でも戦闘が開始されていた。
「撃ちかた用意!!」
滑走路(囮)脇にある機関銃陣地で一人の爺さんが意気軒昂に叫んでいた。誰あろう、この基地の総司令官槙野八十八少将だ。(やっと名前が出た)
「いいか、訓練どうりやれ。弾幕射撃の威力を見せてやれ」
弾幕射撃。それはエンガノ岬沖海戦で戦艦「伊勢」、「日向」が実施した対空射撃法である。簡単に言うと、今までは敵機を見て追って射撃していた。しかし、後追いなので当たらない。しかし、この射撃法は自分の受け持ち区域を決めておき、敵機が入ったら撃つという方式で、簡単に言えば仕掛け網と投網の違いである。
「敵機2機来る!」
機銃員の整備兵が叫んだ。(ここでは整備員も戦うのだ)
「撃ち方よ―い、目標敵P―38戦闘機!」
槙野少将が指揮棒を振りかざし叫ぶ。
そして、敵機が彼らの受け持ち区域に入った。
「てええ!」
彼の命令と同時に、試製40mm連装対空機銃が火を吹いた。
「命中!!」
見事敵は罠に掛かった。進入してきた2機の内、1機はもろに撃たれ撃墜。もう1機は高度を誤り、滑走路に胴着した。
「陸戦隊はあの機を包囲しろ」
そう命令し、彼は空を見た。既に機影はない。どうやら島に来たのは今の2機だけだったようだ。
「どうやら仕事は終わったようだ」
そう言い、彼は機銃から離れた。
一方、空では猛烈な戦いが行われていた。
「すごい」
榊一飛曹は感嘆の声を上げた。白百合部隊は一方的に敵を叩いていた。既に敵は半数程にまで減っていた。
「やるな、彼女ら」
最初、大丈夫かと思っていたが、その心配は全く無さそうであった。自分を追いかけていた四機を加え、敵機は最初8機いたがほぼ同数どうしの戦いのため、旋回性能に勝る水冷零戦が有利であった。
「お!」
見ると、1機が今にもP−38に追いつかんとしていた。しかし
「あ!」
彼が目をやると、その水冷零戦の後ろに敵機が迫っていた。
「いかん!」
彼はフルスロットルでその機に向かった。段々と近づく。そして、追われている機体に5と描かれているのが見えた。それは紺野機であった。
彼は無線機を入れて叫んだ。
「紺野一飛曹、敵機が後ろに付いているぞ!!ってあ!!」
遅かった。敵機が発砲した。紺野機に着弾の火花が見えた。紺野機はロールを打ちつつ、雲の中に入ってしまい、見えなくなった。
「野朗、絶対に逃がさん!!」
そして、彼はその敵機を全速で追う。レクチル(照準機のこと)の機影が大きくなる。そして、
「地獄におちろお!!!」
そう言い、力一杯機銃の発射レバーを引いた。
ほぼ全弾が敵機に吸い込まれた。あっという間に相手は四散した。
「ざまあみろ!!」
そう敵機に吐きつけ、彼は周りに目をやった。すでに敵機は見あたらなかった。
「帰還するか。それにしても、彼女大丈夫かな?」
紺野一飛曹を心配しつつ、彼は機首を基地に向けた。
島が見えてきた。とその時、彼の視界に1機の機影が入った。
「誰だ?」
彼は目を凝らして見た。5が見えた。
「紺野機!?」
見る間にその機はアプローチに入り、そして偽装滑走路に入っていった。
「とにかく降りて確かめないと」
彼は車輪を出し、そして着陸した。整備員の誘導に従い機を止める。そしてエンジンを止め、ベルトをはずし機から降りた。そして、紺野機向けて走った。
紺野一飛曹は機から降りたところであった。
「紺野一飛曹!」
「あ、榊一飛曹」
彼女が顔を彼に向けた。
「先程はありがとうございました」
「ああ、それよりも大丈夫だった?」
「はい、被弾はしましたが致命傷は有りませんでした」
「よかった」
彼の肩から力が抜けた。その時
「よう、榊一飛曹」
「あ、隊長」
そこには隊長の木宮大尉がいた。そして、彼に言った。
「榊、おまえ紺野に気があるんか?」
それは彼にとって意外な質問だった。
「え、はい!!なんで!!」
「だって、紺野一飛曹と昨日親しくしていたし、それに今だって一目散に紺野目指したじゃないか」
彼の顔が真っ赤になった。
「い、いいえ、そんなことありません」
彼は反論した。
「ふ、そう言うところがますますあやしい。それに紺野も赤くなっているし」
「え!」
見ると、紺野一飛曹が顔を赤らめ俯いている。
「こいつはいい。ま、お幸せにな。ひひひ…」
木宮大尉は笑いつつ走っていた。搭乗員待機室目掛け、
「あ、ちょっと待ってください」
あわてて彼はそれを追った。その場には紺野一飛曹が1人取り残された。
彼の苦難はさらに増えたようだ。だが、がんばれ。作者と大日本帝国は君を必要としている。そして、読者も?
第三話完
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