南方独立飛行隊、白百合部隊        第二話初出撃

 

 「はぁぁ…」

 一人の青年が、切り株に腰掛け溜め息をついていた。

 ここはフィリピン近海にある名もない島にある帝国海軍独立飛行隊、白百合部隊が駐屯する基地である。

 今溜め息をついている青年の名は榊潤一飛曹、この日着任した航空兵である。

 その彼が、なぜ溜め息をついているかというと、この日着任後に知らされたこの隊の実体を見たせいである。

 グラマンから逃げ切り、この基地に着陸した直後、まず最初の洗礼として、目の前に飛行服を着た女性が現れた。さらに、なぜ女性がいるか説明されないまま、隊長の木宮大尉につれられて、基地司令に挨拶に行く事になった。しかし、司令官室の扉を開けた途端、第二の洗礼が待っていた。なんと、目の前に現れたのが、髪も真っ白になった老人であったのだ。一瞬、開いた口が塞がらなくなった彼であったが、とりあえず一応言うべき事はすべていった。そして、最後にこんな質問をした。

 「あのお、失礼ですが、司令のお歳はいくつですか?」

 そして、以下の答えが返って来た。

 「69じゃよ」

 そう言われ、彼はずっこけそうになった。

 さらに、第三の洗礼は、彼が搭乗員控え室の扉を開けた途端やってきた。

 彼が扉を開けると、そこには7人しか人影がなかった。しかも、男は一人だけで、後の全員は女性だった。(もちろんその中には、最初にあった女性兵もいた)  

 彼はもう何がなんだか判らなくなっていた。

 そして、彼は山程たまった質問をそこで木宮大尉にしようとした。が、しかし。

 「おい、みんな今日着任した榊一飛曹だ。今日はグラマン3機を撃墜した事もあるし、こいつの歓迎会を盛大に行うぞ」

 そう木宮大尉が言い、その場はもう歓迎会ムードになってしまい、さらに木宮大尉も準備を始めてしまったので、結局彼は1つも質問を出来なかった。

 そしてそのまま、歓迎会が始まってしまった。もっとも彼は下戸だったので(あと多数の女の中にいるのが苦手だったので)、隙をみて、その場を抜け出した。そして歩き回ったあげく、滑走路入り口(カモフラージュされた部分)の近くにあったこの切り株に腰を降ろしたのであった。

 

 「あ、いたいた」

 溜め息をつきつつ、星を見ていた彼の背後で突然声がした。

 振り返ると、一人の女性パイロットが立っていた。しかし、名前が判らない、なにせ自己紹介もないまま歓迎会になってしまったからだ。(何考えとるんだ木宮大尉は!?)

 自分と歳は同じぐらい(ちなみに彼は20)、なかなか可愛い顔をした女性である。

 「あっそうか、自己紹介してませんでしたね」

 そう言い、彼女は敬礼しながら言った。

 「海軍特務一飛曹、紺野一子です。以後よろしく」

 そういわれ、彼も立って答礼し言った。

 「海軍一飛曹、榊潤です。こちらこそよろしく」

 「まったく、なんで途中で抜け出したんですか?いきなり消えたんでみんな探してますよ、さあいきましょう」

 紺野一飛曹がそう言った。しかし、榊一飛曹は戻る気がしなかった。

 「いや、あの、もう少し一人でいたいんで、皆さんにはもう少ししたら戻ると言って来てください」

 そう言い、彼は再び切り株に腰を下ろした。そして、紺野一飛曹が行ってしまうのを待とうとした。しかし、紺野一飛曹はその場を離れず彼の隣に座った。

 「なんでですか?一緒にもどりましょ」

 紺野一飛曹が言った。

 「え、しかし」

 彼は返答に困った。なんと言えば良いのか全く判らなかった。

 「そんなに戻りたくないのですか?」

 紺野一飛曹が言った。

 「……・」

 「そういえば、さっき何か溜め息ついてましたよね」

 見ていたのか、と彼は思った。ここで彼は全て言うことにした。そして話し始めた。

 「ああ、実はね、この基地に着任したらトンデモないものばかり見せられたものでね。なにせ基地司令は69歳の爺さん、パイッロトはたったの8人で内6人が女、そして見たこともない機体。もう何が何だかわからいよ、しかも木宮大尉に質問しようにも、宴会が始まっちまうし、一人に成りたくもなるよ!」

 彼は女の中にいるのは苦手という事だけは言わなかった。後で隊員との交流に齟齬を生むような気がしたからだ。

 「つまり、あなたはどうしてこの基地に女がいたり、見たこともない機体があるか知りたいんですか?」

 紺野一飛曹が言った。

 「まあ、そういう事だな」

 「じゃあ私の知る限りの事を教えましょうか」

 紺野一飛曹が提案した。榊一飛曹は、1隊員が知ることなんて大した事ないだろうと思ったが、聞かないよりましと思い、聞くことにした。

 「まず、何故この隊に女性がいるのか?からお答えします。榊一飛曹は、今帝国陸海軍航空隊で、パイロット不足が深刻なのを知っていますよね」

 そんなこと聞かんでも判っているわと彼は思った。この頃の帝国陸海軍航空隊の実情はひどい物だった。相次ぐ激戦で、開戦以前からのベテランパイロットの殆どを消耗し、多くは、開戦後、急速養成された素人ばかり。(これ本当)榊一飛曹自身、自分の以前いた部隊の隊員の殆どが、自分と同年代だった。その半分が、台湾沖空戦で戦死していた。

 「ああ、そんな事言われんでもわかっているよ」

 「でしょ、じゃあ帝国に女性パイロットがいる事は?」

 これも、彼自身知らないわけでなかった。

 「そりゃ、まあ聞いた事はあるよ」

 そう彼が言うと、紺野一飛曹が得意げに話し出した。

 「じゃあ説明しやすいや。そう、今帝国ではパイロットが不足している。しかし、飛行機を操縦できる者が未だいる。普通ならこれを見逃す手はないでしょ」

 「ちょっとまった!」

 榊一飛曹が叫んだ。

 「つまり、君はこの隊のパイロットが戦前飛行免許を取った女性だと言うのか?!」

 「そのとおり」

 彼女が微笑みながらいった。

 「ちょっと、帝国軍人に女がなるなんておかしくないか?!」

 彼はこの頃の男女差別を物語る言葉を言った。

 「あら、べつにおかしくないですよ、だって、米英独ソ等の各国では女性軍人なんておかしくないですよ(これも本当)

 「そりゃまあ、そうだけど」

 彼はまだ納得いかないようだ。

 「それに、現に存在するんですし」

 彼女は決めての言葉をいった。確かに、どんなにおかしかろうと、存在するのだからしかたないとしか言えない。

 「わかった」

 彼はしぶしぶ納得した。しかし、それとともに新たな疑問が浮かんだ。

 「うん、ちょっとまてよ、君はさっきこの隊の女性パイロットは戦前に飛行免許を取った者って言ったよね」

 「はい」

 「じゃあおかしいいよ、君はどう見たって僕と同い年ぐらいだ。どう考えたって戦前に免許を取れる歳じゃない」

 そう彼が言った途端、彼女が何かを思い出したような顔をした。

 「あ、そうだった。そっちの事も説明しなくちゃ」

 そして、彼女は次の説明に入った。

 「一飛曹は仮性半陽陰ってしってますか?」

 「知っているもなにも、誰だって学校で習うよ」

 彼は知っていないわけないだろ、と言いそうな顔で答えた。

 そう、この世界の日本では仮性半陰陽は結構あたりまえな病気なのだ。このころ、年平均300人程が確認されていた。主に発病するのは海外帰りの人で、気候の違う土地に言ったため細胞に影響を受けたのが原因と言われている。なお、2004年現在では、海外旅行者が増えたせいか、発病者は年平均40人程まで減っている。

 話しを戻す。

 「で、それが何?」

 「実は私、その仮性半陰陽なんです」

 「何!!」

 いきなり、言われたのもあるが、彼は驚かずにはいられなかった。

 「本当に、本当?」

 「はい」

 彼は信じれなかった。目の前の美少女が昔は男として生きていたなんて。

 「私だって最初は信じれませんでした。6年前、朝起きたら体中が痛くて、病院に行ったら仮性半陰陽て言われて」

 「…・・」

 「けど、日に日に変わっていく体を見ていたら、本当なんだって、信じざる得なかった」

 「…・」

 「その後、国の施設に入れられて、みっちり女性としての教育を受けました。その施設に入っている途中で、女性パイロットの志願募集が合ったんです。それで、志願しました。これが私がここにいる真相です」

 「ごめん、紺野一飛曹。なんか言いにくい事を言わせて」

 彼は謝った。彼女を相当苦しめたのではと思ったからだ。

 「いやいいんです」

 「え!」

 彼にとって、それは意外な答えだった。

 「もう過ぎ去った事は戻れませんから。それに、しっかり過去は見つめなきゃいけませんし。それを受け入れられなくちゃ、前には進めません」

 「紺野一飛曹」

 彼は彼女がとても立派だと思った。

 「さ、早く戻り間しょ」

 「ああ」

 二人は立ちあがり、歩きだそうとしたが、急に彼女が立ち止まった。

 「あっ、言い忘れていた」

 「何を?」

 「大野二飛曹のことです」

 「ああ、あの隊長意外の唯一の男の」

 彼は思い出した。何故彼が知っているかというと、その大野二飛曹だけが飛行服を着ていて名札をつけていたからだ。ちなみに、紺野一飛曹を含め、女性隊員は見た事もない服を着ていた。(後に、女性用第三種軍装と判明)

 再び話しを戻す。

 「ええ、実はあの人…男色なんです」

 「えええええええ!!!!!!!!!!!!」

 彼は絶叫した。

 「あなたも、気をつけて下さいよ。こないだも、あの人陸戦隊員に襲いかかったから」

 「うううう」

 彼はもう何も言えなかった。

 老人司令に、女隊員にオカマ、ここは独立〇連艦隊かと思った彼であった。

  翌日

 この日、彼は愛機の整備をしていた。特にする事もないし、女性隊員とでは話すことがないからだ。そして、時計が11時を指した頃。

 ウウウー

 基地内のサイレンが鳴り響いた。

 「敵機来襲!およそ10機前後!全機発進せよ!」

 スピーカーから命令が伝わる。

 彼は急いで飛行帽を付ける。そして、エンジンの始動に入る。そこへ、点火用セルを持った整備兵がエンジンに近づいた。

 「ああ、いいです。この機にはセルモーターが付いています」

 そう言い、エンジンから整備兵をとうざける。

 「コンタッ−ク(接続)!!」

 天下ボタンを押す。一瞬、不正音を上げたエンジンが勢い良く回り始めた。そして、各種機器のチェックを済ます。

 「よ―し、チョーク払え!」

 手で合図する。同時に整備兵がチョークを払う。

 ブレーキを解除し、機を走らせ始める。その時、他の機体に整備員がとりつき、エンジン始動セルを回しているのが見えた。

 機は順調に滑走し、そしてトンネルを抜け、偽装滑走路から出た瞬間、操縦桿をめい一杯引く、そして、飛びあがると同時に、車輪を引き込んだ。

 いざ、蒼穹の空へ、出撃!

 第二話終わり

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第三話に行く

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