南方独立飛行隊、白百合部隊
第1話 着任
1944年 11月末 フィリピン(比島)近海
昭和19年も残す所1ヶ月となった。三年前の12月に始まった太平洋戦争もまもなく
3回目の開戦記念日を迎えようとしている。既にマリアナが陥落し、帝国本土はB−29
の航続圏内に入り、本格的本土空襲が始まるのも時間の問題だった。そして、10月には
フィリピンに米軍が上陸し、フィリピン守備隊と、南方と日本を結ぶ通商ラインも風前の
灯火だった。
そんな状況下、この日1人の帝国海軍飛行兵がフィリイピン目指し飛行していた。
彼の名は榊 潤、19歳の一等飛行兵曹(以後一飛曹と表記)。この日彼は,元いた飛
行隊が内地へ転進(撤退)するなか、突然受けた命令により、陥落寸前の最前線のフィリピン
の白百合部隊へ転属するため飛行していた。
彼は最初フィリピン行きへ納得できなかった。しかし、今までの自分の行いを思い、
仕方ないと思った。
彼は、予科練、及び実戦部隊での腕はよかった。現に、配属三週間後に起こった台湾
航空戦では、F6Fヘルキャット2機、SB2Cヘルダイバー1機、B―24重爆撃機1
機を撃墜していた。しかし、彼には大きな問題があった。それは柔らかい頭だった。彼
は公の場で、言論統制は間違っているだの、この戦争は勝てないだろう等と言いまくった。
本来は営倉ものだが、なんとかその腕で捕まらずにすんだ。しかし、遂に最前線行きとなっ
てしまった。そして、自分は不幸な時代に生まれたから仕方がないと納得し、仲間たちが
内地へ向かう中、一人フィリピン向けて飛び立ったのだ。
「良い天気だな」
榊一飛曹はそう言いつつ、飛行していた。空は所々雲があるものの、ほぼ快晴に近い天気
だった。
時折、飛行チャートで位置を確認しつつ、一路巡航速度350kmで、出発前に指示さ
れた味方飛行場がある島に向かっていた。出発して二時間、そろそろ視界内に島を捉えて
よいころであった。
「しかし、白百合部隊ってなんなんだ?」
ここに来て、彼は転属する部隊のことを考え出した。今まで、出発前の事ばかり考えてい
たが、この時になって、彼は転属先が気になりだした。
「おかしな隊名だよな、普通隊の名にするなら虎とか、剣とか、もっと勇ましい物にす
るのに、それに隊番号がないのもおかしいよな」
彼の疑問はもっともだった。
この頃の海軍航空部隊の隊名は全て番号制(所属鎮守府、航空隊の所属機首を表す)だった。
また、隊名に愛称が付いていても、隊番号は必ずあるし、愛称も剣や、虎、神雷と言った
ようなものだった。しかし彼は、転属命令を受けた時、隊番号を聞いた覚えが全くなかった。
「いったいどんな部隊だ?」
今になり、転属先に不安になってきた。彼の予感は当たらずとも遠からずであった。
ま、そんな事を考えつつ、彼は遂に目的地らしき島を確認した。しかし、同時に何かが
後ろにいるような、恐怖感みたいな物が彼の脳裏をよぎった。
彼は、本能的に操縦桿を倒し、増漕(使い捨て燃料タンク)の投棄レバーを引いていた。
と、同時に
ダダダダ……
さっきまで自分が飛んでた場所を銃弾が作った火線が通りすぎた。
「く、くそう!」
見ると、側を見覚えのあるシルエットを持った機体が通りすぎた。
「グラマンか!」
彼を攻撃したのは、前年のマーカス島空襲以来、米軍の主力艦戦であるグラマンF6Fヘ
ルキャットであった。旋回性能は旧式になった零戦52型にも及ばないが、頑丈な機体、強
力なブローニング12,7mm機銃6挺を持ち、2対1戦法によって多くの日本機を撃墜し
てきた強敵であった。
「ふん!叩き落としてやる!」
そう言い、彼は愛機の金星1500馬力エンジンを目一杯ふかす。そして、自分の側を通
りすぎたF6F向け突進する。そして、段々間合いが詰まり、照準機一杯にF6Fが映った。
「零戦54型は2機でこようが、F6F程度に負けはせん!」
彼が照準機を除きつつ言った。
そう、彼が乗るのは零戦でも最新型の54型であった。正式名は試製零式艦上戦闘機54
型。それまでの非力な1100馬力栄エンジンに換え、1500馬力金星エンジンを載せ、
武装を20mm2挺、13mm2挺にし、機体強度を大幅に強化した機体であった。
「もらった!!」
そう言い、彼は機銃発射レバーを力一杯引いた。同時に、機首と主翼に装備された機銃か
ら、銃弾が一直線に飛び出した。
銃弾は見事にF6Fの1機に直撃した。被弾したF6Fは、破片を四散させ、そして、燃
料タンクに被弾したのか、紅蓮の炎を引きながら海面目掛け墜落していった。
「やった。見たかアメさん!!」
彼は墜落するF6Fに向け叫んだ。しかし、彼が敵機撃墜の余韻に浸ってられたのは10
秒ほどだった。
彼がもう1機の追撃をしようと、機を旋回させようとしたとき。
ガンガンガン…
着弾音が鳴り響いた。
「うお!?」
急いで機を降下させる。見ると、さっきのとは別のF6Fが2機、彼を追っていた。
「畜生!まだいたのか」
悔しさまじりの言葉をいいつつ、彼は降下を続けた。スピード計の速度がぐんぐん速くな
り、高度がすごいスピードで落ちていく。そして、1500mまで降下したとき、再び後ろ
を見た。
「あ!!」
彼は驚きの声を上げた。さっきのF6Fの後ろに、さらに2機の機影が見えた。
「くそう、4対1か。こりゃあ年貢の納め時かな。ようし、どうせ死ぬなら」
彼は覚悟を決め、機を反転し、上昇させようとした。その時、
「あ!」
彼は小さく叫んだ。後ろの機影が、前を飛んでいたF6Fに攻撃したのだ。そして、見事
に2機とも撃墜したのだ。
「よかった。友軍だったか」
安堵の表情を浮かべる榊一飛曹。そして上昇をやめ、水平飛行に入る。少しして、さっき
の2機が接近してきた。しかし、そこで彼は驚かずにいられなかった。
「あれ、なんだあの機体!?」
彼の側に近づいた機体は確かに鮮やかな日の丸を付けた機体だった。しかし、かれの記憶
に全くない機体だった。零戦の胴体だが、水冷エンジンを付けていた。それに若干風防も違っ
ていた。
「いったいどこの機体だ」
彼はその期待をまじまじと観察する。水冷エンジン、1人乗り。そして胴体には百合の花
が描き込まれ、1機は百合―01、もう1機は百合―03と尾翼に描いていた。
「もしかして、これが?」
そういった時、彼はその機体の中で、しきりに指を動かすパイロットに気づいた。無線機
に指を指している所から見ると、無線をいれろと言っているらしい。彼は無線機のスイッチ
を入れた。
「…・・応……応答せよ」
男の声が聞えてきた。
「はい、感度良好。先ほどはありがとうございました」
まず彼は礼を言った。
「俺は独立飛行隊、白百合部隊隊長の木宮大尉だ。貴様の所属部隊を答えよ!」
どうやら榊一飛曹の予感は当たったらしい。
「やっぱりそうですか、良かった。自分は本日付で白百合部隊に転属を命じられました榊
一飛曹です」
「お、なんだ新入りか、ようし。今から基地に向かう、ついて来い!」
「了解!」
そう言い,彼は2機の後ろについた。
そして、しばらく飛ぶと、島が見えてきた。半径7,8km程の小さい島だ。中央には火
山ではないが大きな山が横たわっている。そしてその周りにはジャングルが生い茂っている。
そして、見えた。島の中央に1500m級の滑走路が走っていた。また、その根元部分には、
ジャングルに向け直角に走る300m程の滑走路らしき物が見えた。、
「ようし、おい!宮野二飛曹、先にお手本を見せてやれ!」
木宮大尉の声がレシーバーに入った。
「了解」
そして、続いて聞えたのはなんとソプラノの高い声だった。
「え!?」
そう彼が声を上げてる間に、03と描かれた機体が降下する。しかし、その機体は滑走路
目指さず、なんと島にあるジャングルに目掛け降下する。
「ああ!」
彼が声を上げた時には、その機体はジャングルに延びる300m程の滑走路に接地してい
た。そして、ジャングルに入ってしまった。しかし、爆発も何も起きない。
「どういう事だ!?」
彼が驚きと疑問の声を上げていると、今度は木宮機がやはり同じ行動をとった。
「一体どうなっているんだ?」
彼は何がなんやらのまま、先行した2機と同じコースに入った。
「あ!!!」
彼はそこでやっと謎が解けた。300m程の滑走路の先にあったのは、ジャングルに偽装
された滑走路であった。ジャングルに見えたのは、葉をつけた巨大なネットであった。
「そういう事か」
彼は納得しつつ、脚を下ろし、着陸態勢に入った。そして、脚が接地し、機体がジャング
に偽装された秘密滑走路を走っていく。しかし、彼は再び驚かされた。
「なに、ここは屋根がネットじゃない、トンネルの中だ」
どうやら、この秘密滑走路は半分程が、島の中央にそびえたっていた山を掘ったトンネル
の中にあるらしかった。
と、整備員らしい人間が彼を誘導する。そして、誘導された場所に行き,彼は機体を止め
エンジンを切った。
「ついた」
彼はベルトをはずし,飛行帽をとった。その時、彼を呼ぶ声がした。
「おーい、榊一飛曹!」
声の聞える方を見ると、飛行服をつけた30ぐらいの男が立っていた。
「はい」
彼は機体から降り,その男の方へ近づいた。直ぐに、その男が大尉の襟章をつけてるのが
見えた。隊長の木宮大尉だった。
「御苦労、榊一飛曹」
「本日着任しました、榊潤一飛曹です」
そう言って彼は敬礼した。
その時、ソプラノの声が響いた。
「隊長!その人が新しい隊員ですか?」
彼が驚いて振り向くと、そこには17,8に見える美少女が立っていた。
「な、なんで女がいるんですか!!!!!!!?????」
彼の叫びがトンネル中に響いた。
これが彼、榊一飛曹と、彼が終戦まで戦いつづけることになる白百合部隊との出会いだっ
た。
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